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場末 その9 キッチン あやの


宮崎市の商店街から少し外れたところにある。
いわゆる、町の定食屋さんという位置づけだ。
近くには宮崎労働局があって、官庁で働く人の胃袋を満たしているようだ。

夫婦らしき年配の男女ふたりが店を切り盛りしている。
厨房で忙しそうに料理を作っている男性と、料理を客に提供している女性。
女性のほうはどこかで見たことがあるような…。
おそらく、テレビのタレントか俳優かに似ているのだろうが、思い付かない。

私は料理を待つ間、ふたりの関係を想像してみる。

北国の小さな漁村で住んでいた男は仕事を終えると村の片隅にある小さな酒場に通った。
男はこの酒場で夕食を食べるのが唯一の楽しみだった。
男は暗い過去から逃げて、この漁村にやってきた独り者だ。
男のもうひとつの楽しみは酒場で勤めている女と話すことだ。
女はこの漁村で暴力的な夫と暮しているが、今の生活に満足していない。
いつしか、男と女は深い関係になり、ふたりでかけ落ちする。
そして、たどり着いたのが宮崎。
ふたりの生活が始まり、やがて店を持つまでになった。
(私の勝手な妄想ドラマである)

注文したランチが運ばれてきた。
ハンバーグ、海老フライ、焼き肉、スパゲティ、マカロニサラダ
お皿に丁寧に盛りつけてある。
どの料理も合格点だ。
特に、大根の味噌汁が美味かった。

夜は飲み屋になるようで、カウンターには黒霧島や赤霧島の並んでいた。

場末のグルメにしては寂れた雰囲気に欠けるが、ひとり妄想ドラマに浸りながら、哀愁を感じていた。


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