ー<幽霊>という言葉は巷間でよく使われるが、特に幻影の出没に関連して使われる。超心理学者は一般に<幻霊>という言葉を使う。幽霊は見えるかもしれないが、ほんの数パーセントしか目に見える像はない。一般に、幽霊は、不思議な音や匂いや冷風や事物の移動を起こして、その存在を知らせる-
「妖怪と精霊の事典」(ローズマリー・E・グィリー)の「幽霊」の項目にこう書いてある。
幽霊が確認出来るのは「ほんの数パーセント」であり、「不思議な音や匂いや冷風」なのである。
この本は幽霊や超常現象にからんだ事件が書いてあり、面白く読めた。
オカルトやサイコキネシスなどを断定的な形で書いている訳でもなく、「といわれている」とか「こういう言い伝えられている」と結んでいるところがいかにも真面目な本である。
エイブラハム・リンカーンについての記述が興味深い。
ホワイトハウスではリンカーンの幽霊を見た(聞いた)という証言が多いという。
オランダのウィルヘルム女王がフランクリン・D・ルーズベルトを訪ねた時、外の廊下に足音とドアにノックをする音を聞いた。
ドアを開けると、フロックコートを着てシルクハットを被って立っているリンカーンを見て、驚愕し失神した。
もう一人の賓客も長靴を履いてベッドに腰を下ろしているリンカーンを見たという。
エリノア・ルーズベルトやハリー・トルーマンもリンカーンの存在を感じたと言い、最近ではロナルド・レーガンの娘、モーリーンがリンカーンルームでリンカーンの幽霊を見たと報告している。
リンカーンは大統領時代、心霊主義に興味を示していて、様々な霊媒の交換会に出席したと伝えられており、 そこで得た経験が政治に影響を与えたと誠しやかに言い伝えられている。
もともと、愛児のウィリーの死後、その精霊に接触したいがために、交換会に出席したのだという。
それも、心霊主義者で妻のメアリー・トッドの影響を受けたらしい。
面白いのは彼が暗殺される10日前に、自分の死の夢を見、それを日記に書いていることである。
暗殺される前の晩、リンカーンは、閣僚の一人に、暗殺される夢を見たと言い、暗殺の日にはボディガードに暗殺される夢を連続三夜見たと秘かに明かした。
リンカーンは自分がその夜撃たれるだろうと知っていたようで、出かける時、いつもボディガードに「グッドナイト」と言う代わりに、「グッドバイ」と言った。
リンカーンにまつわる幽霊の話は死後、至る所で伝えられることになる。
それは140年も以前の話である。
残念というか、幸運というか、ボクは幽霊に出会ったことがない。
恐がりな人の前には幽霊は現れないというから、ボクの前にはおそらく現れないだろう。(とお願いします)
怖い物見たさというのか、子供の頃、貸本屋で「梅図かずお」や「水木しげる」の漫画を借りては読みふけっていた。
読んだ後、夜トイレに行くのが怖くて、「お姉ちゃん、トイレ、ついていって」と言っては姉を困られていた。
ボクたち家族はパン屋の2階に住んでいて、トイレは1階階段の下で、人気のない工場はすぐ横にあった。
真っ暗な工場はなんとも薄気味が悪く、くみ取り式のトイレは不気味だった。
天井のシミを見ると、それが人間の顔に見えたりするのである。
だから、寝室の近くにトイレがある家がうらやましくてしかたがなかった。
以前、Sさんというデザイナーが我が社にいた。
この子は霊感が強いらしく、よく金縛りに遭っていたらしい。
幽霊を見たとか、霊体験をしたとか、気味の悪いお話も得意だった。
今でも覚えている話がある。
駅から自宅まで、Sさんの通勤途中に、大きな屋敷があった。
200坪の敷地に、古びた瓦葺きの家屋と庭があり、住人は70歳前後の老夫妻だった。
庭には小さな畑をつくり、時折老夫婦が季節の野菜を栽培しているのを近所の人が見ていた。
その老夫婦が心中した。
夫人が身体を悪くし、看病疲れから悲観的になり、ご主人が夫人を包丁で刺し、自分も鴨居で首を吊ったという。
その後、屋敷は持ち主が住まないまま、荒れた状態で放置されていた。
そんなある日、会社の飲み会で帰りが午前0時を過ぎた為、Sさんは駅まで母親に車で迎えに来て貰った。
母親の運転する車の助手席で、酔っていたSさんはまどろんでいた。
車は屋敷の前の道を通り過ぎた。
しばらくして、母親はハンドルを握りながら、「新しい人が引っ越してきたのね」と呟いた。
「どこに」とSさんは少し目を開けて、聞き返す。
「前久保さんとこの屋敷よ。女のヒトがクワで庭の畑を耕していたけど」
「そんなはずはないよ。だって、今何時だと思っているの。夜の12時を過ぎているのよ」とSさん。
「でも、確かに人が庭にいたのよ」と母親は言明する。
その夜は母親を言葉を信じ、新しい住人が住み着いたのかと納得した。
しかし、次の日に屋敷の前を通ると、全く人の気配などなく、空き家のままだった。
母親ははっきり見たというのである。
いったい、何を見たのだろう。
Sさんの話は真に迫るところがあり、聞き手をぞっとさせる。
これも彼女の霊力のなせる技なのかと思ったこともあった。
が、この人、話をやたらと大きくする傾向があった。
Sさんと一緒に仕事に行く道すがら、いろんな話をしてもらったが、「ほんまかいな」というようなネタもあったようだ。
だから、この怪談めいた話も真実かどうかは解らない。
余談だが、彼女の霊力のお陰で、ボクは「アムウェイ」の会員にされてしまった。
Sさんに付いて、セミナーに出かけたり、洗剤の実験や健康食品のレクチャーを受けることになった。
ディストリビューターのポイントがどうのこうのと説明する口調は「こわい話」をする時のそれであった。
ボクは3万円分の健康食品を買ったまま、1年で脱退してしまったが…。
最後に知人から聞いた気味の悪い話を。
その人はマンションの13階に住んでいる。
ある日の深夜(1時頃)、近くのコンビニまで出かけた。
買い物を済ませて、エレベーターに乗り込んだ。
深夜で、エレベーターに人気はない。
13階を押した。
2階で、突然ドアが開いた。
開いたのに、誰も乗ってくる気配はない。
ドアがすうっと閉まる。
次ぎの3階でもドアが開いた。
また、乗ってくる気配はない。
次ぎの4階でも、5階でも、6階でも、ドアが開いたが、人は乗ってこない。
毎階止まる。
腹立ちまぎれに、開くたびに「閉」を押した。
12階に着いて、またドアが開く。
慌てて、「閉」を押した。
その瞬間、「ブゥーーーー」。
驚いて飛び降りたら、ドアは閉まり、そのまま昇っていった。
エレベーターには「定員12人」と書いてあったという。
誰や、笑っているのは。
|