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コオモリ
  淳一
お前、コウモリになったんやな。
お父さん、びっくりしたで。
どうして、トイレに入れたんや。
どこから入ったんや。
あれからいつもトイレに入ると、ずっと捜しているんやけど。
もう、おらへんな。
また、出てきてくれたらええのに。

お父さんな、坊さんが来はった時しか仏壇に手を合わせへんねん。
「線香の1本くらい、あげたらどうなん」と、お母さんとお姉ちゃんに言われるけど、…。
仏壇に向かって、手を合わせてもしょうがない。
お前、仏壇なんかにおれへんやろ。
お前の部屋や風呂や洗面台やトイレに、いるんちゃうのか。
そんな気がするねんな。
ちょっとくらい、顔だしてもええで。
足が無かっても、こわがらへんから。

死んだからいうても、お前はゼロになったのと違う。
お前を思う気持ちは生きてるときと同じや。
お母さんもお姉ちゃんもお祖母ちゃんも、先生も友達も、みんないつまでも変わらへん。

お父さん、会社もまあまあうまいこといってるし、お給料も少し上がった。
けど、せいないな。
なんか、つまらん。
おらんようになってから、お前の大きさが判ったんやから。
情けないことや。

爪、噛んでるのとちゃうか。
悪さして、神様を怒らせてないか。

また、会えたらええのにな。