TOP

雀鬼10番勝負(5月吉日)

印刷屋さんのI君と最初に仕事をしたのは、震災の翌年だった。
取引してるS印刷に入社したばかりだった。
その頃私は、メガネ屋さんのチラシ印刷の仕事を受注したばかりで、新人のI君が担当で付いてきた。
チラシは全国にある店舗の新聞折込で、大変スケジュールがタイトだった。
夜に原稿をもらい、また夜に校正に行く。
そんな日々が続いた。
ちょうど印刷業界にパソコンが普及し始めた頃のことで、私にとって初めて版下ではなくデータで出稿する仕事だった。
我が社にも1台マッキントッシュのパソコンが入ったばかり。
データを作っていたのはオッチョコチョイで有名(?!)なデザイナーのTさん
2回目に受注した仕事でとんでもない間違いがあった。
確か、札幌店の折込チラシで10万枚の数量だった。
夜I君と刷り上がったチラシの見本を納品に行くと、そこの社長がチラシをジロジロ見て言った。
「このメガネの写真、歪んでいるのと違うか」
チラシにはブランドもののメガネの写真が並んでいる。
そう言われてよく見るのだが、私には判らなかった。
しかし、写真と見比べると、確かにゆがんでいる。
写真は先方からの支給だし、写真を分解してはめ込んでいるだけなので、そんな間違いが起こるはずはないと思っていた。
しかし、原因はパソコンの扱いにあった。
パソコンでの仕事が当たり前になった今では、考えられないミスである。
デザイナーのTさんは写真をスキャナーで取り込んではめ込む時に、シフトキーを押さずに縮小をしていたようだ。
だから、微妙に縦長に歪んでしまったのだ。
素人目には全く判らないが、そうかといって許される訳がない。
刷り直しである。
その時、I君は神経質に髪をかきむしり、蒼白な顔になっていた。
無理もない。
入社したばかりで10万枚のチラシを刷り直しするのだから、ダメージは大きかったはずだ。
折込の日を少し延ばしてもらって、慌てて刷り直しの手配をした。
それから1年間、I君とメガネのチラシを作り続けた。
I君は当時、結婚していた。
私より10歳若いのだが、奥さんは私と同じ年だった。
ペタジーニの姉さん女房ようだ。
おまけに20歳の子供がいた。
数年後、離婚した。
その後、何度か女性とお付き合いをされていたようだが、お相手の女性に共通項がある。
いずれも子持ちなのだ。
それで、私はI君のことを「子持ちフェチ」と呼んでいる。
酒のつまみも「子持ちシシャモ」なのだ。(なんちゃって)

連休中日、I君、高校時代の友達H君(女体アナリスト)、T君(不倫研究家)と卓を囲んだ。
前半全く調子が悪かった。
最初の半荘は箱割れのドボンに一回も上がれず、やきとり(一回も上がれずに半荘を終えた時に×が付く)を頂いた。
2回目の半荘もマイナス。
3回目に場所が変わり、配牌も少し良くなった。
オーラス(最後の局)になった。
H君がわずか千点ほどの浮きでトップ、I君は少し沈み、私は2千点沈んでいた。
点棒を計算すると、3900以上の上がりでトップを獲れる。
しかし、配られた牌は散々なものだった。

ただ、救いはドラがだった。
通常でも4枚全部ドラにしているので、1枚あるだけでも役が2つになる。
ツモ牌は良かった。
と順調に入ってきて、下記のイーシャンテン(聴牌のひとつ前)になった。

ここで が来たら、イーペーコーを含み最高に良い形になる。
でもピンフドラ4の満貫で上がれる。
しかし、次ぎに来たのはで下記テンパイになった。

この場面はこれでも十分だった。
何故なら、ドラ2つに付くがあるので、ピンフ・ドラ2で3900点になるからだ。
私はすぐにを落とした。
3人から、「ええっ」という声がする。
ドラ2つ付く牌を捨てたからだ。
その後すぐにH君からが出て、H君はマイナスとなり、ひとり浮きの結果になった。

麻雀は高い上がりばかりを追求するゲームではない。
一段降りたところから攻めると良い結果を招く、そんなことが多い。
これも、どこか人生と似ている。

この日の結果は−4だったが、○が3つ付いて、勝ちとなった。

目次へ