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雀鬼12番勝負(8月吉日)

大学1回生の時、S君は悲しい体験をしている。
1ヶ月の間に続けて、父親と兄を亡くした。
病名は定かではないが、兄は急性白血病と聞く。
S君からこんなエピソードを聞いたことがある。
父親が亡くなったのを聞いて、兄の友達からお悔やみの電話が掛かってきた。
S君は兄も亡くなったことを伝えたという。
さぞ、友達は驚いたことだろう。
そんな体験だと、さぞ身体には気を付けているのだろうと思いきや、S君には全くその気配はない。
タバコは学生時代と同じ、ショートホープをぷかぷか。
アルコール類は肝臓の数値が悪いのでドクターストップを受けているようだが、止める気配はさらさらないようだ。
諦念なのか、刹那なのか。
風体も荒くれ風、豪快な感じがする。
だが、意外と繊細なのだといつも感じる。
太い指で器用に麻雀牌をつまみ、ライターでショートホープに火を付ける。
そのしぐさが見ていて心地よい。
麻雀も豪快なようで緻密だ。
しかし、そこでも諦念、刹那なるものが現れたりする。
面倒くさそうに、ポロッととんでもない危険牌を投げ出すところだ。
麻雀の打ち方は生き方を映し出しているようでもある。

なんばグランド花月近くの雀荘で、そのS君、Y君(ギャグ麻雀)、M君(イテマエ麻雀)と卓を囲んだ。
吉本新喜劇のタレントが幕間なのだろう、2時間ほど麻雀をしていた。
その日は最初から絶好調だった。
ツモが良いとか、手牌が良いとかとは違う。
実に納得がいく打ち方が出来たような満足感があった。
滅多にない満足感だ。
始まってすぐ、親で下記の手牌になった。

5、6、7の三色が見える。
が入ると、最高だ。
だが、中盤過ぎで場は煮詰まっていて、鳴いているY君とM君が聴牌(テンパイ)模様。
ここで、S君が二枚目のを出す。
悩ましいが、私はあっさりと三色をあきらめ、それを鳴いて聴牌にした。
親は役をひとつ落としても、早い上がりが良い。
すぐにが出て、5800点の上がりを得た。
この上がりで一気に調子づいた。
ここのルールではがドラになる。
それぞれが2枚づつあるので、ドラは通常の4枚と併せて10枚もある。
ドラがらみの高い上がりが多くなるので、ドラを持つと早い上がりが求められる。
だから、鳴きを多様する作戦が勝利を導く。
早いジャブで攻めるボクシングに似ている。

この日は作戦が功を奏し、+62、○が4つの一人勝ちとなった。

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