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雀鬼9番勝負(1月吉日)

高校の友人であるF君は大手電機メーカーM冷機に勤めている。
大学を卒業後すぐに入社したので、社歴は28年になる。
M冷機もこの不景気で業績がふるわず、希望退職を募ることになった。
1000人の応募に対して、1300人が応募したという。
F君も手を上げた。
大きな会社は私たち小さな会社と違って、退職する社員に対する扱いも細やかだ。
社内には就職斡旋の会社が事務所を構え、退職する社員たちの次の職場を世話してくれる。
どこかの会社みたいに、石を持って追われるごとく辞めていくのとは訳が違う。
しかし、1300人も辞めて、会社は大丈夫なんだろうか。
大丈夫ならば、1300人は今まで何をしていたのだろう。
さすがに募集人員より300人も多いので、辞めた人間に元の職場を嘱託かパートで斡旋することもあるらしいが。

そのF君が帰阪したので、H君(女体アナリスト)、T君(不倫研究家)と梅田に飲みに行くことになった。
飲む場所を決めるのはいつもT君。
足早に梅田の雑踏の中を歩くと、ディアモール近くのビルに入る。
洒落た居酒屋で、飲んで食って話をする。
一通りの話が終わって、「じゃ、囲むか」と雀荘に足が向く。

最初の半荘はH君とT君が好調なスタートを切り、私が追いかけるというパターンだった。
あまりやる気のないF君は途中でチョンボをして、みんなの失笑を買う。
そして迎えた最終局では、H君が34000点のトップ、私が32000点の2位、T君は25000点程度の3位だった。
リーチ棒の2本(2000点)が場に溜まっていて1000点さえ上がればトップになれると、私はテンパイを急いだ。
そして、下図の手牌になった。

待ちのテンパイである。
上がれば、 とドラので3200点になって、トップは取れる。
場は中盤で、T君がを鳴いていて不気味な存在だ。
そんな時、が来た。

3暗刻になって、闇当たりでも満貫になる。
切る牌はのどちらか、単騎待ちである。
不気味なT君はツモ切りが続いて、テンパイは確実だ。
T君の捨て牌にはマンズが3枚出ている。
は出ているが、は出ていない。

安全なら、を捨てての単騎で待つ。
その時、私の心の中に思わぬ色気が出た。
「テンパイ模様のT君の捨て牌で待てば、H君やF君からひょこっと出てくるかも知れない」と。
私はを捨てて、の単騎で待った。
「ロン!」
T君の高らかな声が喧噪の雀荘に響く。
何と待ち。
マンズの混一色で、ドラが3枚付いたハネ満である。
その瞬間、私は大きく凹んでしまった。
しかしなあ、これってどうしようもないよな。

次ぎの半荘に頑張って、その日は○2つ、+12の勝ちとなった。


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